[アブラナ]
風土計 -岩手日報-
- 朝、寝ぼけた耳にどこかで誰かがノックしているような音が聞こえる。目が覚めるにつれて、これはいつものキツツキだなと思い出す。くちばしをたたきつける激しさはかなりのもの。頭に相当のダメージがありそうだ。ところがキツツキは舌骨(ぜっこつ)が発達し、頭蓋骨の周りをぐるりと取り巻いている。それがシートベルトのように振動から脳を守っているという。
- キツツキは漢字で書くと啄木鳥。石川啄木のペンネームの由来だ。生まれ育った渋民の林間にこだまする音には慣れ親しんでいた。随筆には「閑静高古の響」と表現し「常に之を聞いて以て日夕の慰めとしぬ」とある。
- 耳になじんだ響きとリズムが啄木の詩歌の基層を成しているのだろう。里山でキツツキが飛び回れる環境を残したい。新しい時代の詩人を育む土壌となるかもしれないからだ。
(2016-02-22 岩手日報)
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