〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木24歳! 時代へ鋭い眼差しを注ぐ


[ムラサキバレンギク]


今週の本棚・この3冊
 明星歌人と時代 松平盟子・選
 <1>与謝野晶子評論集(与謝野晶子著、鹿野政直・香内信子編/岩波文庫/821円)

 <2>ちくま日本文学033 石川啄木石川啄木著/ちくま文庫/950円)
 <3>メロディアの笛 白秋とその時代(渡英子著/ながらみ書房/2835円)

  • 『明星』という二十世紀初頭の文芸美術誌は多彩な才能を育んだ。その筆頭は与謝野晶子。歌集『みだれ髪』の「やは肌のあつき血汐(ちしお)にふれも見でさびしからずや道を説く君」は、女性にあるまじき品位のない歌と世を驚かした。
  • 石川啄木も『明星』から出発した天才。歌集『一握の砂』『悲しき玩具』で知られる。
  • その一方、啄木は時代へ鋭い眼差(まなざ)しを注ぐ。幸徳秋水らの一斉検挙、つまり大逆事件における社会主義者への国家権力の発動を「強権の勢力」と捉えた長文の評論「時代閉塞の現状」はその一つ。切迫した文章は今読んでも心が震える。新聞発表は見送られた。言論を取り巻く圧力はかほどに厳しかったのだ。このとき啄木、二十四歳。同年秋に日韓併合があり多くの日本人は歓喜に湧いたが、啄木は心を痛めていた。
  • 「新しき明日の来(きた)るを信ずといふ/自分の言葉に/嘘(うそ)はなけれど−−」。絶望と危機感の中に、切実な祈りもこめられているように思う。
  • 北原白秋は、日本語の豊かさや音楽性をひたすらに追い求め、詩歌のみならず童謡・民謡にまで広く手を染めた国民詩人だった。詩集『邪宗門』『思ひ出』、歌集『桐の花』に至る絢爛(けんらん)たる作品は、ただただ眩(まぶ)しい。

(2015-08-23 毎日新聞
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