〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

古里の訛りの聞こえそうな停車場へ


[チャイブ]


天地人」 東奥日報

  • 東京駅の雑踏の中、トレーを持った若い女性に、試食の菓子を勧められた。「ん、おいしい」とつぶやくと「もしかして、津軽からお越しでは。私、弘前なのでとても懐かしく感じます」。女性は20歳前後だろうか。イントネーションで察して声を掛けてくれたらしい。つがる市の川柳作家濱山哲也さんが教えてくれた。都会で懸命に働く若者の姿に、胸を打たれたという。
  • 岩手県出身の歌人石川啄木の有名な歌を思い出す。<ふるさとの訛(なまり)なつかし/停車場の人ごみの中に/そを聴きにゆく>。古里を思いながら帰ることができない。都会の言葉にもなじめない。つい古里の訛りの聞こえそうな停車場へ足を向けた感傷が流れる。
  • 寺山修司にもこんな歌がある。<ふるさとの訛りなくせし友といてモカ珈琲はかくまでにがし>。同郷の友が都会の言葉を流ちょうに操っている。気まずさと寂しさと。そんな苦々しさだろうか。
  • 最後に冒頭の濱山さんの一句を。<津軽弁これが私の本籍地>

(2015-05-01 東奥日報天地人

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