[ムラサキナツフジ]
NHKラジオ第2 カルチャーラジオ 8月22日放送の概要
オノマトペと詩歌のすてきな関係
「しらしら」の晶子、「たんたら」の啄木
講師 小野正弘(明治大学教授)
◎明治時代以降の短歌のオノマトペについて
「オノマトペ(擬声語・擬態語)」は表意語では表現しにくい言葉のニュアンスや生き生きとした感じを伝えるのに欠かせない。万葉集から現代まで、作品を例に取り上げながら、オノマトペの表現とその魅力を探る。
はらはらともろこし黍を剥く音に しばしばさむる山里の夢
昔見し面影もあらず衰へて鏡の人のほろほろと泣く
しらしらと涙のつたふ頬をうつし鏡はありぬ春の夕に
ほろほろと涙散るなる心地して羽子突くことは物憂くなりぬ
いのちなき砂のかなしさよさらさらと握れば指のあひだより落つ
たんたらたらたんたらたらと雨滴が痛むあたまにひびくかなしさ
はたらけどはたらけど猶わが生活楽にならざりぢつと手を見る
働いても働いても生活は楽にならない。そこで「じっと手をみて…」どうするか。『一握の砂』には革命を志向した短歌が多く出てくる。「じっと」には次なる行動への衝動が潜んでいるという側面がある。あきらめではない。オノマトペひとつでこのようなことが分かってくる。
啄木のオノマトペは意外にも伝統的枠組みをよく守っている。しかしよくみると、繊細で複雑な様々なニュアンスがそこに込められている。