早春賦の思い〜教育の現状に寄せて
大田尭・東京大名誉教授
退職手当の引き下げ前に地方自治体職員が「駆け込み退職」する例が相次いでいる。年度途中に退職者が急増したため、現場で人手不足が生じるなど問題は深刻化している。戦前から、94歳となった今日まで、教育の在り方を思索してきた大田尭・東京大名誉教授に寄稿してもらった。
- 問題の本質は、退職手当の問題だけではなく、端的に云えば職場の"居心地"だと私は思う。教育という責任ある仕事環境全体がおかれている状態の中で生じた事態、その症状の一つであって、原因はもっと深刻なところにあると、と私は思う。
- 「早春賦」の鶯ではないが、"いかにすべきや いかにすべきや"止むことのない寒風冷雨の中での私の心境である。
- それには、一人ひとりの人権感覚を私たちの日常生活にとりもどす努力を粘り強く重ねるほかはない。
- 第二に生命は太陽、水、食物、そして地球を含む人々に依存して生きている。生命は「かかわり」の中にある。他者、他物への依存は生命の根本的特質である。
- 第三に、生命は、誰とも違う他者とかかわり続けることで、一瞬々々自分を変えて、他者との調整を行いながら、新たな創造力をその人なりに創出する。それが、他者とのかかわりで、他者への、あるいはどんなささいなことでも社会的価値の創造であれば、まさに「こころよき」仕事の達成ということになるのではあるまいか。
こころよく
我に働く仕事あれ
それを仕遂げて死なむと思ふ
石川啄木『一握の砂』より
「早春賦」の中で、春のやわらかな陽光をまちわびたい。
(2013-02-27 47行政ジャーナル)