〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

松崎天民の記事は、石川啄木を感激させた


[ネズミモチ]


今週の本棚:川本三郎・評
『探訪記者 松崎天民』=坪内祐三・著
   筑摩書房・2310円

  • こんな愉快な、知られざる新聞記者がいたのか。
  • 松崎天民(1878-1934)。今日、その名はモダン都市東京を語る際の必須文献『銀座』の著者として知られるくらいだろう。著者は約十五年かけてこの文化史のなかに埋もれていた在野の異才を調べ、痛快な評伝に仕上げた。大変な労作。
  • 「探訪記者」とは現在でいえばルポライターだろうか。…どんな探訪記事を書いたのか。
  • …明治四十四年、知識人を震撼させた大逆事件も取材する。管野すがに死刑判決が下った瞬間を目撃する。さらに刑が執行された内山愚童の遺体を追い、関係者になりすまし、落合の火葬場にまで入り込む。この記事は、石川啄木を感激させたという。
  • 天民の大逆事件の記事に感動したという石川啄木は、当時、天民と同じく「東京朝日」で働いていた。「大阪朝日」時代、二人目の子供が生まれて、社の給料では生活が苦しかった天民に、自分の新聞に原稿を書くようにと声を掛けてくれたのは「滑稽新聞」の宮武外骨だった。いずれも意外な人間のつながりである。

(2012-01-29 毎日新聞> 今週の本棚  東京朝刊)