『忘れな草 啄木の女性たち』
山下多恵子 著 未知谷 版 2,520円
- 今からおよそ百年ほど前のこと、一人の青年が世紀をまたいで瞬く間に走り去った。石川啄木である。……二十六年の生涯を啄木は全力で駆け抜けた。
- 本書は啄木と女性たちとのさまざまな出会いのかたちを探求した著作である。
橘智恵子、芸妓小奴、啄木の二人の娘(京子・房江)、母カツ、最愛にして唯一の存在・妻節子。
- 特に第二部「節子に聞く」は圧巻だ。なんと著者は石川節子へのインタビューを敢行するのである。もとより架空の対話ではあるが、これは「語らぬ女性」節子に肉薄するための渾身の方法である。
- 本書の節子は、自分の人生を真正面から生き抜いている。対象へ差し向ける比類のない共感力が、この著者にはある。この著者ならではの突出した才能だ。
彼女たちは、百年の後、山下多恵子という稀有の書き手を得て、私たちの前に生き生きとよみがえったのである。
今野 哲(長岡工業高等専門学校助教授)
(2007_01_14:にいがたの一冊: 新潟日報)