書き手:高橋 源一郎
文学史にかろうじて名を残した明治の詩人が書いた都市エッセイ
『東京印象記』(大空社)著者:児玉 花外
◆啄木の新作と明治文学史の片隅
- 雑誌「群像」に『日本文学盛衰史』という小説を連載しはじめた。三回目を書き送ったばかりで、このコラムが出る頃には本屋の店頭に並んでいるかと思う。舞台は明治四十年前後、登場人物は明治の文学者たちで、現在のところは石川啄木が活躍している。で、考えてみたのだが、啄木を活躍させるなら啄木の短歌にも触れたい。
- なんとか、誰も触れたことのない啄木の未知の短歌について書けないものか。といったって、啄木の書いた作品は何もかも発見され、すべて発表されている。どうする? 啄木に「新作」を書かせりゃいいのである――と、ここまで考えた人はいるかもしれない。でも、思いつくだけで実行には移さないだろう。
- 「小説の中で使いたいので、啄木として新作の短歌を書いていただけないでしょうか」と現代の歌人に頼んでみるという作戦である。わたしは担当の編集者を通じて、わたしの好きな、そして現代を代表する某歌人にこの無茶苦茶なお願いをしてみた。そうしたら、なんと「お引き受けいたします」という返事。やったね!
- 待つこと数日、わたしが受け取った「啄木」の新作は十一首。どれも素晴らしい。小説の方が霞んじゃうよなあといいつつ、楽しみながら、わたしは小説の部分を書いた。
なお、「啄木」氏の本名は連載終了時まで明かされぬ予定である。
(2023-02-20 exciteニュース>ALL REVIEWS)
文学史にかろうじて名を残した明治の詩人が書いた都市エッセイ (2023年2月20日) - エキサイトニュース