『サラダ記念日』愛されて30年 三十一文字に口語、なお盤石
《「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日》
俵万智さんの歌集『サラダ記念日』が1987年に刊行されて30年になる。単行本・文庫合わせて280万部という部数で読み継がれている歌集は、短歌に何をもたらしたのか。
《「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの》
- 商品名が登場、若者の恋愛状況を詠んだ歌集がベストセラーになった。高校教師をしていた当時、俵さんは「何でもないこと、日常のなかの本当に小さな心の揺れに敏感になること」が歌を作る基本と語っている。
- 俵さんが短歌を始めたきっかけであり、カンチューハイの歌に最初に二重丸をつけた師の佐佐木幸綱さんは、俵さんを「石川啄木を継いでいるところがある」と評した。俵さんと同世代の歌人でエッセイストの穂村弘さんも、多くの読者を持った歌人として、喜怒哀楽の表現がシンプルな啄木と俵さんを比較する。
- 単にうたかたの人気だったわけではない。連綿と愛されてきた三十一文字の形式という枠のもと、人と時代を得て可能になった短歌の布石。『サラダ記念日』は30年を経てなお盤石だ。
〇俵万智さんに聞く 歌と生きること、ずっと並行している
短歌は日常の小さな感動や心の揺れに対応できる詩形であり、柔軟に対応してくれるのが魅力。年齢を重ね、住む場所が変わっても、歌に対するスタンスは30年前と変わりません。付け加えることがあるとすれば、青春や恋愛同様、子育てと短歌はすごく相性がいいということでしょうか。
《何度でも呼ばれておりぬ雨の午後「かーかん」「はあい」「かーかん」「はあい」》
歌は誰かに頼まれて作るものでもない。歌人に限らず、何かでありつづけるのはたいへんですが、新作を楽しみにされる歌人でありたい。(岡恵里)
(2017-07-06 朝日新聞)
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