<卓上四季>故郷 北海道新聞
- <ふるさとは遠きにありて思ふもの>。室生犀星の有名な詩は発表当時、望郷の念を詠んだと言われた。しかし実際は、そう単純ではなかった。上京したものの作品がなかなか認められない。故郷の金沢で傷心を癒やそうとするが、義母の冷たい仕打ちに遭い、逆に孤立感が深まるばかり。故郷への愛憎相半ばする思いが込められているそうだ。
- 先週末の二つの出来事を見て思い出した。東京電力福島第1原発の事故に伴う楢葉町の全町避難指示が解かれた。帰郷した住民にとって4年半ぶりのわが家の居心地はひとしおだろう。だが、除染廃棄物の袋が野積みにされ、水がめのダムに放射性物質が残る。
- シリア内戦を逃れてきた難民ら2万人超がドイツに入った。「荒れ狂う海に子供の遺体が浮いていた」との証言が胸をつく。
- 石川啄木は故郷を出る苦しみを<石をもて追わるるごとく>と表現した。原発と戦争は今や人々を古里から追いやることがある。人間が生み出しながら手に余る―。そんな怪物をいつまで放置するのか。
(2015-09-08 北海道新聞)
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