〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

南部陽一郎さん訃報「研究がうまくいかない日、啄木の「友がみなわれよりえらく見ゆる日よ……」


[ヒペリカム]


天声人語朝日新聞

  • 日本の戦後は焼け跡から始まり、戦後の物理学もそこから始まった。ノーベル賞に名を刻む物理学者、南部陽一郎さんの論集『素粒子論の発展』に当方の頭でも分かるくだりがある。戦後すぐに陸軍から戻って東大の助手に就くと、3年間研究室に寝泊まりしたそうだ。洋服がないのでいつも軍服。寝るときは机にござを敷いた。
  • 紙と鉛筆と、あとは頭脳だけ。理論物理学は俊才の集まる分野だが、南部さんは飛び抜けていた。ノーベル賞をもたらした理論は、半世紀余り前の発表時はなかなか理解されなかったという。先進的すぎたためだ。
  • 米国の名門研究所に在籍中、激しい競争の中で研究が一向にうまくいかない日々が続いた。啄木の「友がみなわれよりえらく見ゆる日よ……」の心境になったと冒頭の論集につづっている。
  • 南部さんの94歳での訃報(ふほう)がきのうの新聞に載った。穏やかな人柄を誰もが惜しんだ。

(2015-07-19 朝日新聞

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