〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

短歌月評:規範の再確認=大辻隆弘

  • 近代短歌の選歌集が二冊、新書として発行された。
  • 永田和宏著『近代秀歌』(岩波新書)と、岡井隆・馬場あき子・永田和宏穂村弘選『新・百人一首』(文春新書)である。
  • 二冊に共通するのは、明治以降に作られた短歌の規範を確認しようとする明確な意志である。「あなたが日本人なら、せめてこれくらいの歌は知っておいて欲しいというぎりぎりの一〇〇首」という永田の言葉には、この二冊に共通する編集理念が明確に現れている。

  ・ゆふされば大根の葉にふる時雨いたく寂しく降りにけるかも 斎藤茂吉
  ・君かへす朝の舗石(しきいし)さくさくと雪よ林檎(りんご)の香のごとくふれ 北原白秋
  ・やはらかに柳あをめる/北上の岸辺目に見ゆ/泣けとごとくに 石川啄木

  • 二冊に共通して選ばれたこれらの歌は、いやしくも短歌に携わる者なら、誰もが知っておかねばならない遺産であろう。

(2013-03-25 毎日新聞>東京朝刊)