〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

よごれたる手をみる――石川啄木


[メマツヨイグサ]


編集手帳 8月13日付

  • 短歌では石川啄木に〈よごれたる手をみる――/ちやうど/この頃の自分の心に対ふがごとし〉がある。
  • おのが心の奥を見つめようとするとき、人は無意識のうちに手のひらを眺めるのかも知れない。「アンパンマン」の漫画家やなせたかしさんの場合も、そうであったらしい。やなせさんの作詞した歌『手のひらを太陽に』(作曲・いずみたく)が生まれて、今年で50年になる。
  • 漫画の注文もない不遇の時代に、深夜の仕事場で何となく懐中電灯で手を照らしていて浮かんだ詩句という。ぼくらはみんな 生きている/生きているから かなしいんだ…その歌はいま、被災地で歌われ、傷ついた子供たちの心を元気づけている。〈自分が一番元気の無かった時に作った歌が『手のひらを太陽に』だったのに〉〈人生というのは予測できない〉とある。

(2011-08-13 読売新聞>編集手帳