〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

石川啄木 著(P.14〜15)愛犬の耳斬りてみぬ

[トウモロコシの雌しべ]


我を愛する歌


(P.14)


   愛犬の耳斬りてみぬ
   あはれこれも
   物に倦みたる心にかあらむ


   鏡とり
   能ふかぎりのさまざまの顔をしてみぬ
   泣き飽きし時


<ルビ>倦み=うみ。能ふ=あたふ。


(P.15)


   なみだなみだ
   不思議なるかな
   それをもて洗へば心戯けたくなれり


   呆れたる母の言葉に
   気がつけば
   茶碗を箸もて敲きてありき


<ルビ>戯け=おどけ。呆れ=あきれ。敲き=たたき。