〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

「啄木:小説家の夢破れ 歌で名を残す謎」[評者]穂村弘


【サクラ】


『啄木―ふるさとの空遠みかも』」三枝昂之 著
  小説家の夢破れ 歌で名を残す謎 [評者]穂村弘歌人

  • 「最後の望みを託した東京にもやはり居場所はなかった。居場所を求め続けて求められなかった男。それが故郷を出た後の啄木だった」
  • 北海道に別れを告げた日から東京で死を迎えるまでの四年間、本書は石川啄木の最後の日々を丁寧に追っている。
  • 借金、家族の不和、娘の病、様々な不如意の中で手慰みのように短歌を作り出すのだが、結果的にその歌が彼の名前を文学史に刻むことになった。
  • 著者は多くの研究書から北海道開発地図までの資料を駆使して、この謎の解明に当たっている。そして最大の「資料」こそは啄木自身が残した短歌に他ならない。自身が優れた歌人である著者の実作に対する感度の高さが、本書に独自の魅力と説得力を与えている。
  • 歌と個人の生活背景や、大逆事件、短歌滅亡論、自然主義などの社会的文学的な事象との影響関係が分析され、文体、モチーフ、三行書き表記などの問題から文学史的な意義についてまでの刺激的な見解が示されている。


『啄木―ふるさとの空遠みかも』

      • 著者:三枝 昂之
      • 出版社:本阿弥書店   価格:¥ 2,940

(2009-12-08 朝日新聞