読む力をつけるノンフィクション選
『中高生のための文章読本』
・筑摩書房
・2022年10月15日発行
・編者 澤田 英輔, 仲島 ひとみ, 森 大徳
「麦わら帽子のへこみ」 穂村弘
—— 共感と驚異
・短歌が人を感動させるために必要な要素のうちで、大きなものが二つあると思う。それは共感と驚異である。共感とはシンパシーの感覚。「そういうことってある」「その気持ちわかる」と読者に思わせる力である。
頬につたふ
なみだのごはず
一握の砂を示しし人を忘れず
思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ
・石川啄木や俵万智の歌が多くの読者を持ったのは、このような共感性に優れているためである。読者は自分自身の体験や気持ちをその作品の上に重ね合わせてカタルシスを得ることができる。
砂浜に二人で埋めた飛行機の折れた翼を忘れないでね 俵万智
・「飛行機の折れた翼」は、あくまでも共感へ向かうためのクビレとして機能しており、ここに含まれる驚異の感覚は、それ自体の純度を追求されてはいないという点にも注意したい。つまり読者の想像力が全くついて来られないほど驚異的なものは初めからめざしていないのだ。
いたく錆びしピストル出でぬ
砂山の
砂を指もて掘りてありしに 石川啄木
・「錆びしピストル」の場合も、それが思いがけないものでありつつ、作者のさみしい不能感を暗示するという点で、読者に理解しやすい象徴性を持っていることも、「折れた翼」と同様である。
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読む力をつけるノンフィクション選
『中高生のための文章読本』
筑摩書房 2022年10月15日発行