〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

病院の窓によりつつ、/いろいろの人の/元気に歩くを眺む。 啄木

ハナニラ

中日春秋

・明治時代に詩歌に生きた石川啄木は肺結核のため、二十代で夭折(ようせつ)する。没後に出版された歌集『悲しき玩具』の冒頭は次の一首である。

「呼吸(いき)すれば、/胸の中(うち)にて鳴る音あり。/ 凩(こがらし)よりもさびしきその音!」

・同居する母や妻も同じ病だったが、貧しくて薬の入手に苦労した。母が逝くと約一カ月で後を追い、妻もやがて亡くなる。啄木の日記には自身の病状が記された。「十一月二十四日/古本やを呼んで古雑誌をうる。五十銭/三十七度八分 寝てくらす」「十二月三日/咳(せき)が出 喉がいたみ、さうして気分が悪くて寝てゐた。」

・評伝『石川啄木』(ドナルド・キーン著、角地幸男訳)によると、『悲しき玩具』に収録された歌の多くは、病状が重かった時期の作品。病院のベッドで見たもの、感じたものが詠まれた。こんな歌がある。

「病院の窓によりつつ、/いろいろの人の/元気に歩くを眺む。」

・元気に歩く幸せのためにも、病を侮るまい。

(2022-09-15 中日春秋)

 

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