〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木の友人の土岐善麿は敗戦の日に……

ノブドウ

みすず野

  • 歌人土岐善麿は、新聞人として、昭和に入り戦争に肩入れした演説を繰り返した。かつては石川啄木の友人として、戦争に反対し朝鮮併合に反対していたのにだ。そして77年前の8月15日の家の中をこう歌った。「あなたは勝つものとおもってゐましたかと老いたる妻のさびしげにいふ」。
  • 哲学者の鶴見俊輔さんは「台所で料理をととのえていた妻は、乏しい材料から別の現状認識を保ちつづけた。思想のこのちがいを、正直に見据えて、敗戦後の歌人として一歩をふみ出した土岐善麿は立派である」という。
  • さらに「敗戦当夜、食事をする気力もなくなった男は多くいた。しかし、夕食をととのえない女性がいただろうか。他の日とおなじく、女性は、食事をととのえた。この無言の姿勢の中に、平和運動の根がある」と。

(2022-08-14 市民タイムスWEB > 松本・安曇野塩尻・木曽 信州の地域紙)

 

2022.8.14みすず野 | 連載・特集 | 株式会社市民タイムス