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句読点付きの短歌
吉海 直人(日本語日本文学科 特任教授)
歌人・岡野弘彦氏が平成18年に出した歌集『バグダッド燃ゆ』(砂子屋書房)は、二つの意味で話題になりました。一つは、自らの戦争体験とイラク戦争を重ね合わせ、戦争に対する怒りを歌に込めて詠じている点です。もう一つは、短歌にあえて句読点を付けている点です。これには評論家の外山滋比古氏(令和2年死去)がすぐに反応しました。インターネットにあげられた新連載コラム「日本語の個性」の最終回「句読法」で、外山氏は次のように述べています。
(中略)
石川啄木の歌集『悲しき玩具』(東雲堂)を見れば、至る所に使われている句読点がいやでも目につくに違いありません。冒頭の歌からして、
呼吸すれば、
胸の中にて鳴る音あり。
凩(こがらし)よりもさびしきその音!
と表記されています。啄木の歌には句読点だけでなく、感嘆符や括弧・ダッシュまで付けられています。これは当時もかなり評判になっていました。何故外山氏は、そのことに思い至らなかったのでしょうか。
その啄木に影響を与えたとされるのが土岐善麿(哀果)です。彼の歌集『黄昏に』にも、句読点の付いた歌が収められています。代表作として、
りんてん機、今こそ響け。
うれしくも、
東京版に、雪のふりいづ。
をあげておきます。三行書きという形式まで共通していますね。実は『悲しき玩具』は、啄木の没後に哀果が編集して出したものなので、啄木の意図を超えて句読点が施されている可能性も否めません。
(後略)
(2022-04-25 同志社大学)