風土計
- 「ふるさとの山はありがたきかな」と詠んだのは、望郷の歌人と称された石川啄木である。その短歌ほどには広く親しまれていないが故郷の渋民を舞台にした小説も書いている。
- 「鳥影(ちょうえい)」と題した小説は1908(明治41)年11月から東京毎日新聞に連載された。ほぼ2カ月、原稿用紙250枚ほどの中編。啄木にとって唯一の新聞連載小説となった。
- 今読んでも自然で分かりやすい文章だが、展開が中途半端なまま結末を迎えた。続編へ意欲を見せる付記にも心残りが感じられる。
- 妻と子を友人に預けて文学に生きる決意で上京して半年。連載の機会をつかみ、三畳半の下宿で原稿用紙に向かった。石川啄木記念館の収蔵資料展で紹介されている。
- 20日は啄木の誕生日。「鳥影」を書いた頃は22歳だった。作品には、生活と文学に苦闘する啄木の姿とともに、近くて遠い故郷を思う心情がにじむ。
(2022-02-20 岩手日報)