「ビギナーズ古典MAP」監修 フェリス女学院大学教授・谷知子先生インタビュー③
セットで読んで「推し」を見つける
――図示された関係性を見ると、古典作品を、単独で読むのではなくてセットで読むとか、流れの中で読む面白さというのがあることがわかります。
- そうですね。セットで読むと面白いというものはたくさんあります。たとえば『万葉集』、『古今和歌集』、『新古今和歌集』。この三つはぜひセットで読んでみてほしいです。
- 西行、松尾芭蕉『おくのほそ道』、良寛もセットで読んでいただきたいですね。『おくのほそ道』から『西行』にのびる矢印には「漂泊への憧れ」とコメントをつけました。
- 「漂泊」とは何かというと、西澤美仁さん(『西行』の編者)は、西行が出家直前に詠んだ和歌「空になる心は春の霞にて世にあらじとも思ひ立つかな」(『山家集』)と、石川啄木の「不来方のお城の草に寝転びて空に吸はれし十五の心(盛岡城の草の上に寝転んで空を見上げると、吸い込まれそうになった十五歳の心よ)」(『一握の砂』)に共通する精神と指摘されています。心がふわふわと浮遊していく感覚ですね。
- 若い頃って夜汽車を見るとふらっと乗ってみたくなる、そういう衝動ってあるじゃないですか。遠くに行ってみたい、誰も知らない街に行ってみたい、そういう気持ちを、西澤さんは「心が空に吸い込まれるような感覚」と表現されています。西行は「浮かれ出づる心」ということばをよく用いています。身体から心だけが遊離して、愛する桜や月に向かって浮遊してしまうというんですね。
- 芭蕉も、『おくのほそ道』に、「片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず」と書いています。ちぎれ雲が空に流れていくのを見ていると、じっとしていられなくなる。これが漂泊の思いですね。
(2021-12-19 カドブン KADOKAWA 文藝WEBマガジン)
セットで読むと「推し」がみつかる? 「ビギナーズ古典MAP日本編」制作裏話 谷知子先生(フェリス女学院大学教授)インタビュー③ | カドブン