〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

賢治 啄木に心酔したロジャー・パルバース

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アジサイ

日本を応援してくれる最強の論客であると同時に、日本の悪い面についての呵責なき批判者

『ぼくがアメリカ人をやめたワケ』(集英社インターナショナル)著者:ロジャー・パルバース

日本文化への深い愛

  • アメリカに根をおろしたユダヤ系の両親のもとに生まれ、何一つ不自由なく育ち、抜群に頭がよく健康で、女の子にもさぞ持てたに違いない陽気な若者がいた。カリフォルニア大学、ハーバード大学大学院、と学歴も超一流。ところが彼は、ベトナム戦争が本格化し激しさを増していくと、アメリカという「歴史上最も偉大な国」の独善性に違和感を抱き、母国を離れ、広い世界を見る旅に出た。そうして一九六七年にたまたまやってきた日本と奇跡のような運命の出会いが生じた。
  • 本書はその若者がなぜ「アメリカ人をやめた」のかを軸に書き綴られた自伝である。来日後の著者の多方面での活躍ぶりはよく知られている通りだ。宮沢賢治石川啄木に心酔し、それぞれの作品の本質を読み解いた素晴らしい英訳も刊行している。
  • 本書の中心となるのは、やはり日本の文化と文学である。「妄信的愛国主義」がはびこる時代に逆らって、すべてのものが時間と空間を超えて結びついている宇宙を夢想した賢治。「完璧にカットされた(中略)切り口から幾筋もの輝かしい光を放つダイヤモンドのような透明感」がある短歌によって、鋭敏な時代の記録者となった啄木。そして著者が実際に出会い影響を受けた素晴らしい日本人たち――井上ひさし大島渚坂本龍一のような著名人から市井の庶民まで。こういった人たちに代表される「日本の姿を見て、日本は自分にとって生涯の母国だと感じました」と、著者は言う。

【書き手】沼野 充義 1954年東京生まれ。東京大学卒、ハーバード大学スラヴ語学文学科に学ぶ。2020年7月現在、名古屋外国語大副学長。

(2021-06-17 exciteニュース)(初出メディア 毎日新聞 2021-01-23)

 

日本を応援してくれる最強の論客であると同時に、日本の悪い面についての呵責なき批判者 (2021年6月17日) - エキサイトニュース