小社会
こぼれ落ちる命
- 〈いのちなき砂のかなしさよ/さらさらと/握れば指のあひだより落つ〉。石川啄木の歌集「一握の砂」の中の有名な一首。すくってもすくってもこぼれ落ちる砂。自らの不遇な人生を重ね合わせて、むなしさを感じたのだろうか。
- 砂が落下する一瞬一瞬は、二度と帰ってこない貴重な時間でもあろう。人生には無用な時間など少しもない。そう考えると「いのちなき」無機質な砂が、まるで「いのちそのもの」のようにも思えてくる。啄木はそれをいとおしんでいたのかもしれない。
- 「握りしめても握りしめても、指の隙間から命がこぼれ出ていく」。NHKのテレビニュースで先日、神戸市の訪問看護師が語っていた。新型コロナに感染したが入院先が見つからず、自宅待機する患者を巡回している。
- 「いま一度、自分や大切な人の命を守るためにできることを、皆さんと一緒に考えていけたら」。訪問看護師が訴えた言葉をしっかり受け止めたい。
(2021-05-10 高知新聞)