八面観
- 彼の地の出来事に思いを寄せ、やがて足元の不安へと引き戻される。歌人石川啄木の詩作「心の姿の研究」の一編「事ありげな春の夕暮」の一節を引く。〈遠い国には戦(いくさ)があり…海には難破船の上の酒宴(さかもり)…〉。
- 遠い国で起きた戦災・海難を夢想するところから始まるこの詩は、〈何か事ありげな─春の夕暮の町を圧する重く淀んだ空気の不安〉と自身の心を描写した上で、また遠方へと視線を移す。詩人高橋順子さんの解説に助けられながら、啄木の心象風景を思い描いた。
- グローバリゼーションと聞いてもピンと来なかったが、コロナが世界にまん延して以降、遠い国の出来事が足元の暮らしにも通じていると思い知らされた。事ありげな春の夕暮れに、「世界は広くもあり、狭くもある」としみじみ思う。
(2021-04-18 長野日報)