春秋
たかが砂、されど砂
人の世のはかなさや自身の満たされぬ心を「砂」に例えたのは石川啄木。明治晩期に異彩を放ち、26歳の若さで逝った彼の第1歌集「一握の砂」は現代でも版を重ねている。
- 小説や詩を志しながら期待した評価は得られなかった。多額の借金を抱え、職や居を転々とした。そんな啄木の挫折感は作品に深く投影されている。<いのちなき砂のかなしさよ/さらさらと/握れば指のあひだより落つ>。
- こちらは使命を見事に果たした。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「はやぶさ2」。52億キロの旅を経て地球に帰還させたカプセルの中に小惑星「りゅうぐう」で採取した砂粒が“どっさり”入っていた。
- 量は約5・4グラム。一握りにも満たぬが、想定の0・1グラムを大きく上回った。宇宙の成り立ちや生命の起源の解明につながるとの期待も膨らむ。たかが砂、されど砂-と形容すべきか。
(2020-12-22 西日本新聞)