〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木の伯父(岩手県一等巡査)の活躍 

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ヒマワリ

新・木曜「カルチャー・考える」【北の文化】

啄木の伯父と釧路 小林芳弘

  • 明治13年12月、石川啄木の伯父・工藤常象(つねかた)が岩手県宮古港から船で根室へ渡った。常象は啄木の母カツの兄、岩手県一等巡査である。2千円という大金を盗んで逃走した陸軍歩兵曹長を捕縛するためであった。工藤貞作と名前を変え、当時の釧路国厚岸郡・琵琶瀬に潜伏しているという情報を聞き出した。常象は商人に変装して根室へ赴き、根室警察署探偵係の金子初蔵と共に琵琶瀬に着いた。
  • その日は犯人が厚岸に出かけて、留守であった。翌日、男の帰りを待ち構えた。男は常象を宮古商人と信じた。しかし、逃亡犯であると2人が確信した途端、男は馬にまたがり、駆け出した。時を逃さず、常象は職名を明かし、初蔵と挟み撃ちにして逮捕した。
  • 翌日、根室へ護送する途中、昆布盛村チヨブシを通った。その時代、ここは北海道でも指折りの難所で、一行がさしかかった瞬間、男は突然身を翻し縛られたまま激浪に身を投じてしまった。翌12月20日、浜に遺体が打ち上げられた。このてんまつが地元の新聞で報じられると、常象の名は高まった。啄木は故郷の岩手県渋民村から盛岡高等小学校に進学したが、その時に寄宿したのが常象の家であった。(こばやし・よしひろ 国際啄木学会会員。近著に『石川啄木岩手日報』)

(2020-09-03 朝日新聞

 

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