〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

「かの時に言いそびれたる大切の言葉は…」啄木

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アジサイ 天を仰いで

千の風になったあなたへつづる 言えなかった思いの数々

        阿部浩

 逝ってしまった人が、悲しむ生者に語りかける――名曲「千の風になって」は、北海道七飯町の静かな森の中で誕生した。

 「千の風になって」は、七飯町に住む作家新井満さんが訳詞・作曲した。大勢のアーティストによって歌われているが、中でも、テノール歌手秋川雅史さんののびやかな歌声でブレークし、広く知れわたることになった。

秋川さん「コンサートでは心を無にする」

 コンサートでは心を無にする。いまだに難しいですが。自分の人生の中でもいろんな大切な人との別れを経験したが、それを頭の中に描いてしまうとだめなんです。自分の思いが強ければ強いほど、お客さんとの間に「壁」ができてしまい、歌が届かない。いかに無になれるか。禅の境地ですね。

新井さん「大沼の森の風が作らせた」

 北海道駒ケ岳のふもとに広がる大沼湖畔の森の中に、私の家はあります。2000年夏のこと。作者不詳の英語詩を翻訳し、曲をつけたいと思っていました。ところが、どうしてもうまく訳せない。気分転換に飼い犬の「月子」を連れて外に出て、森の中を散策しながら大声で英語詩を朗読したんです。

 朗読が終わると、月子がおびえたような顔をしてほえた。次の瞬間、ザァーっと一陣の風が吹いてきました。私はそのときたしかに「風の姿」を見たような気がしたのです。

 「千の風になったあなたへ贈る手紙」コンクールでは、最終選考委員長も務めました。応募の手紙を何度も読み返しているうちに、共通する言葉があることに気づきました。「ごめんなさい」と「ありがとう」です。大切なあの人が元気なうちに、なぜこのひとことが言えなかったのだろう。そう悔やみながら手紙を書いているんです。

 「かの時に言いそびれたる大切の言葉は今も胸にのこれど」――啄木の短歌のように、言えなかったことが心の痛みとなって、謝罪と感謝の手紙を書かせるのだろうと思います。

 死とは終わりではなく、再生すること。二度と会えないと思っていた故人と、手紙の中で再会し、親しく対話ができる。だから、「千の風」になった人に手紙を書くと、うれしく懐かしい気分になり、元気さえ出てくるのでしょう。

(2020-07-03 朝日新聞

 

千の風になったあなたへつづる 言えなかった思いの数々:朝日新聞デジタル