郷土の本棚
『石川啄木と岩手日報』小林芳弘著
記事から知る新事実
- しかし、啄木は日報紙上には113編もの短歌、詩、評論、エッセーなどの作品を掲載している。これらの作品を集大成した文献として、図録「啄木と岩手日報」(95年)があり、石川啄木記念館が95年に同タイトルの特別展を開いた際にまとめられた。
- 今回の書は、前掲の図録と書名はほぼ同じでも、内容は全く異なる。解題すれば「啄木の作品ではない岩手日報の記事を渉猟して、これまで伝えられていなかった啄木の動向を掘り起こし、伝記的な新事実を突き止めた書」となろう。
- 具体的な例として、第3章「渋民村の祝勝会」を挙げる。04(明治37)年8月9日の「渋民村の祝勝会」の記事は、啄木の日記が空白の時期に日露戦争中盤における大祝勝会が渋民村で行われ、「石川啄木の日露戦争と黄禍論」が諸氏とともに弁論されたことなどを報じている。この記事を誰が書いたのかについて、著者は背景に啄木と友人の伊東圭一郎、それに岩手日報主幹の清岡等がいることを突き止め、啄木の評論「閑天地(十四) 我が四畳半(五)」における言及から、「啄木が書いた原文をもとに、岩手日報記者が記事に仕立てた」と推論した。
- これまでに取り上げられることがなかった岩手日報の記事から資料を発掘したこの書によって、啄木の伝記研究に新たな脚光が浴びせられた、と言ってよい。
(森義真・国際啄木学会理事、石川啄木記念館館長)
(2020-02-23 岩手日報)
『石川啄木と岩手日報』
著者 小林 芳弘
桜出版 税込 1,650 円
メール sakuraco@leaf.ocn.ne.jp
ファックス 019-613-2369