読書
『胡堂と啄木』 郷原宏著 作家と歌人 不思議な共通点
- 実に面白く胸おどるような思いにさせる文学的評伝である。岩手県の盛岡の同じ中学で青春を過ごしたふたりの少年が、明治・大正という近代日本の疾風迅雷のなかで、文学者として成長していくところを描いている。事実は小説より奇なり、いや小説より面白い。
- まずこのふたりの取り合わせである。「銭形平次」の作家・野村胡堂と、『一握の砂』の歌人・石川啄木。この捕物帖作家と天才歌人は、4歳違いだが盛岡中学の同窓生であり、片や80の生涯を全うし、片や26歳で夭折(ようせつ)。あらゆる面で対照的なこの両者は、しかし不思議な共通点を持ち、浅からぬ交流があった。
- ふたりの周辺には、のちに日本の政財官軍学界をリードする人材がひしめいており、この東北の地方都市に近代日本の青春群像が展開される。ふたりの「文学的生涯」は、ひとつの時代の強烈な反抗精神こそが形成したことがわかる。
(2020-01-11 日本経済新聞)