書評
『世界は啄木短歌 をどう受容したか』
池田 功 編 母語が違っても共有できる魅力
評者 太田 登(天理大名誉教授)
- 翻訳はあらたな言語を創造する文化である。明治文学は翻訳文学を基盤に成立したともいえる。若い日の石川啄木もイプセンの戯曲を翻訳し出版することをめざし、晩年にはその思想形成に深くかかわるクロポトキンの著作を熱心に読書し筆写していた。啄木という詩人はたえず世界の動きを注視し、外国の清新な芸術を吸収する鋭敏な感性をもっていた。時代を批評する「先見性」と「国際性」にあふれた啄木短歌の魅力がさまざまな国や地域の言語によって世界に向けて広く発信され、受容されていることを本書は学際的な視点から伝えている。
- 編者の池田功によれば、啄木短歌は英語、中国語など19言語によって翻訳されているという。それぞれの言語圏における啄木短歌の受容や翻訳の実態が、14名の研究者や翻訳者によって緻密に論証されている。
- 啄木短歌には「ふるさとの山に向ひて/言ふことなし/ふるさとの山はありがたきかな」のように、世界の人々が共有しうる魅力があることを証明している。しかし本書から学ぶべき問題は、単なる異文化理解にとどまらず、「日本語」で書かれた啄木短歌を「日本語文学」という自明の領域から「世界」に向けて解き放つことにある。
(2019-12-29 しんぶん赤旗)
『世界は啄木短歌 をどう受容したか』
池田功 編 桜出版
2019年発行 1800円+税
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