〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木「…ぢっと手を見る」5本の指はどのようにして生まれてきたか?

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カエデ

リストラされた細胞たちによって、今のあなたがあることをご存知か?

 成長という叙事詩に織り込まれた哀話
     山科 正平 北里大学名誉教授

 

組織が消え去ってできる"指"

  はたらけど
  はたらけど猶わが生活楽にならざり
  ぢっと手を見る
         石川啄木『一握の砂』

  • 石川啄木は生活苦のあまり「ぢっと手を見る」と短歌に残している。
  • 「ぢっと」見るまでもなく、手には親指から小指に至る5本の指が並んでいる。個々の形状に多少の違いはあっても、手と足に5本ずつの指があることは脊椎動物に共通する原則的な現象である。それでは、5本の指はどのようにして生まれてきたのだろうか?
  • からだ造りは、受精卵というたった1個の細胞がその発端になる。受精卵が分裂・増殖をはじめてわずか4週ほど経った頃、ヒトのからだはわずか4mmほどにすぎないものの、立派な胚子にまで成長してきている。
  • その心臓の高さに相当する胸壁の両側に、緩い高まりが左右1個ずつ生まれてくる。それより2日ほど遅れて同様な高まりが将来の骨盤部にも生まれてくる。それぞれ、上肢芽、下肢芽とよばれるが、これが5週から6週にかけてどんどん長く伸びだして、上肢と下肢に向けて発達していく。
  • 肢芽の先端、つまり手あるいは足先は平たくなっていて、ちょうど野球のキャッチャーミットのようになっているが、まだ指の姿はないので、手板、足板とよんでいる。

 
細胞社会における死亡原因

皆のために犠牲的自死を選ぶ細胞もいる

 

  • 生き延びて発達した指も酷使に酷使を強いられ、最後はうめき声とともに「ぢっと」見つめられる。そんなケースの反面、少ししわくちゃになってはいても、永い人生を享受させてくれた輝かしい指もあるはずだ。
  • からだ造りのプログラムには何をどう造るかは記録されているとしても、できあがったからだをどのように活用するかまでは書かれてはいない。だから我々は生まれ落ちたその瞬間から、あてどころのない旅路を歩み続けていくことになる。

(2019-11-29 講談社 ブルーバックス

 

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