〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

ユーモラスな借金の言い訳 啄木の場合

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ユズリハ

借金や浮気の言い訳が壮絶! 窮地の文豪たちが筆力を駆使して書き上げた仰天言い訳集

『すごい言い訳!』

  (中川越/新潮社/2019-03-18発売)

  • 政治家の舌禍事件は、時期を問わず何かと話題になる。政治家はメディアの前にさらされ、当然釈明に追われることになるが、その内容たるや、「熱が入ってしまった」とか「事実でなかった」などお粗末なものばかりだ。どうせなら、日本が誇る文豪たちのような機知に富んだ「言い訳」をしてみたら、逆に評価が上がるかもしれない。
  • 『すごい言い訳!』は、文豪たちが公私にわたりしたためた“弁明の書簡”を集めた1冊である。

石川啄木が借金を申し込んだ時の言い訳は?

  • 貧困にあえぎながらも、人々の心をとらえ続けた歌人石川啄木だが、実はしたたかな一面もあったようだ。明治37年12月、啄木18歳の時、4歳年上で親友の言語学者金田一京助に借金の依頼をする。原文は明治の文体でいささか読みづらいので、著者による要約を引用する。

<雑誌『太陽』の編集者から、原稿が〆切に遅れたので支払いも一月末になると知らされ、時代思潮社からの稿料も遅れると通知があり、誤算だらけだ。それでも自分は呑気だが、大家は家賃が取れずに困るし、私は実家を援助できずに困っている。まさに絶体絶命。一月には自分の詩集が出版され、執筆中の小説で百円ぐらいは取れる予定だから、申し訳ないが十五円貸してくれないだろうか>

  • いかにも啄木の窮状を感じられる文面だが、実はこの時には雑誌社から稿料を貰う予定も、詩集の出版予定もなく、事実は実家の窮状だけだったという有り様。ここまで堂々と嘘を書きながらも、「自分は呑気だ」と書くなどユーモラスな印象もあって、なんだか憎めない。かと思うと、「何となく、自分を嘘のかたまりの如く思ひて、目をばつぶれる」(歌集『悲しき玩具』より)とも歌っているのだから、やはり図々しいというべきか…?

    文=犬山しんのすけ

(2019-05-07 ダ・ヴィンチニュース)

 

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