〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

石川啄木『一握の砂』 いつの時代にも対応できる多様で鋭い歌がある

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 [レモン]


【明治の50冊】(48)石川啄木『一握の砂』 人生の事象詠んだ国民的歌集

 「いのちなき砂のかなしさよ/さらさらと/握れば指のあひだより落つ」
 「不来方(こずかた)のお城の草に寝ころびて/空に吸はれし/十五の心」

  • 教科書ではじめて石川啄木に接したという人は多いだろう。息苦しい教室の片隅で、啄木が歌う広やかな青空にあこがれた心持ちがなつかしい。
  • 『一握の砂』(明治43年刊)は、啄木が24歳の時に刊行された。3行分かち書きが特徴で、文語が多いにもかかわらず口語的な印象を受ける文体から、生活に根ざした抒情が直接的に胸に響いてくる。
  • 国際啄木学会会長の池田功・明治大学教授は、「技巧や装飾を少なくし、短歌に日常生活を持ち込み、あくまで自己の真実に正直な歌集であろうとした。そこが短歌史において、それまでの歌集とは異なっていた」と話す。「生活あっての文学、その中でも短歌という表現形式には、それほど期待していなかった。だから逆に、気取ることなく自由に自分の気持ちを託すことができたのでは」(池田教授)
  • 没後すぐに刊行された第2歌集『悲しき玩具』とともに、『一握の砂』は広く親しまれてきた。戦前の教科書には、「ふるさとの訛(なまり)なつかし /停車場の人ごみの中に/そを聴きにゆく」のような望郷、「たはむれに母を背負ひて/そのあまり軽きに泣きて/三歩あゆまず」といった親孝行の歌が掲載されており、『一握の砂』は故郷を回想した感傷的な歌集というイメージが定着した。
  • 時代に照らされ、読み直される歌がある一方、「こみ合へる電車の隅に/ちぢこまる/ゆふべゆふべの我のいとしさ」「友がみなわれよりえらく見ゆる日よ/花を買ひ来て/妻としたしむ」といった競争社会の中で苦闘するサラリーマンへの応援歌もある。池田教授は「いつの時代にも対応できる多様で鋭い歌がある。まさに国民的歌集と呼べる」と話す。
  • 青春への愛惜はもちろん、父母、夫婦関係、旅、病、時代閉塞(へいそく)をとらえた社会性-。およそ人生にまつわる事象を、26年2カ月の短い生涯に詠み尽くした不思議に打たれるばかりだ。(永井優子)

 

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