[ウメ]
私達自身のような「夭折の天才」 ドナルド・キーン『石川啄木』を読む
『石川啄木』(新潮社)
著者:ドナルド・キーン 翻訳:角地 幸男 発売:2016年
- 本書を読むと、啄木の異能が、鷗外や漱石、或いは、与謝野鉄幹・晶子夫妻といった当代の目利きのみならず、直に接した多くの者たちに感得せられていたことがよくわかるが、その割に、当の与謝野晶子でさえ、彼の死後の名声については、実に心細い、懐疑的な言葉を残している。
- それでも、啄木の短歌は、キーン氏が「『一握の砂』に収められた多くの歌に、読者は一読して心を奪われる。」と語る通り、彼のことをまったく知らない人間でさえ、よくわかると感じるような不思議な普遍性を備えている。
- キーン氏は、『食うべき詩』の次の一節を「どんな長い説明よりも啄木の短歌の特徴をよく語っている」として引用している。「詩は所謂詩であつては可けない。人間の感情生活(もつと適当な言葉もあらうと思ふが)の変化の厳密なる報告、正直なる日記でなければならぬ。従つて断片的でなければならぬ。――まとまりがあつてはならぬ。」
- なるほど、キーン氏の嘆く通り、「多くの若い日本人」は、今や啄木でさえ読まなくなっている。しかし、「啄木の絶大な人気が復活する機会があるとしたら、それは人間が変化を求める時である。」という言葉を信じるなら、それはまさに今日であり、本書がその最良の導き手となることは間違いない。
(2019-03-08 ALL REVIEWS)
『石川啄木』(新潮社) - 著者:ドナルド・キーン 翻訳:角地 幸男 - 平野 啓一郎による書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS