〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木の「こころ」の鬱屈は幻影を招き寄せる

 f:id:takuboku_no_iki:20190202155340j:plain

[スノードロップ]

生老病死)啄木の「こころ」に浮かぶ暗い像 山折哲雄

 夏目漱石が「東京朝日新聞」に入って仕事をはじめたのち、石川啄木は校正係として同じ朝日に就職した。やがて三行書きの短歌をつくりはじめる。それが評判になり「朝日歌壇」の選者に抜擢(ばってき)された。

 啄木といえば、神童のイメージだ。だが同時に、高慢、不倫の匂いも立ちのぼる。今日の「不倫」騒動のあおりか、地元岩手における啄木の評価は何とも芳しくない。

 その啄木の歌集を読みすすめていって驚かされるのは、「こころ」という言葉の使用例の多さ、である。その言葉とその雰囲気がどの頁(ページ)を繰っても顔を出す。

  死ね死ねと己を怒り もだしたる 心(こころ)の底の暗きむなしさ

  いと暗き穴に心(こころ)を吸はれゆくごとく思ひて つかれて眠る
 

 このような暗いこころの鬱屈(うっくつ)は、やがて
 

  どんよりと くもれる空を見てゐしに 人を殺したくなりにけるかな

 のような「こころ」の幻影を招き寄せるのだ。
 (宗教学者
(2019-02-02 朝日新聞

 

(生老病死)啄木の「こころ」に浮かぶ暗い像 山折哲雄:朝日新聞デジタル<hr class="day_sep">