〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

13歳の啄木が 初恋に苦しんでいた頃を詠んだ歌

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[マツカサ]

みちのく随想

 甘酸っぱいふるさとは今 心の支え、噛みしめる

                     山本玲子

  • 東京の叔母からいつもの便りが届いた。リンゴの発送依頼と送り先の住所が書かれてあった。盛岡で生まれ育った叔母が東京へ嫁いで50余年。この時季に盛岡のリンゴを何箱も買い求め、家族で食べたり、知人たちにも贈るのが恒例になっている。
  • 石川啄木が初恋の頃に食べたリンゴは、さぞかし甘酸っぱい味がしたことであろう。その頃を回想して次のように詠んでいる。

   城址
   石に腰掛け
   禁制の木の実をひとり味ひしこと

  • 「禁制の木の実」とはリンゴのこと。旧約聖書のアダムとイブが食べた禁断の果実、つまりリンゴを意識している。恋愛が白眼視されていた明治の時代に、当時13歳の啄木が、初めての恋に苦しんでいた頃を詠んだ歌である。
  • 啄木にとっても、リンゴはふるさとを象徴する果物である。啄木はこんな夢を見た。石を持て追わるるごとくふるさとを出てから1年半程が経ち、東京で暮らしている時であった。
  • 「母が、裏の林檎の一番上に林檎が二つ赤くなつてるから、取つて喰べろと言った。すると妹が先に立つて駆け出した。予は小倉服──上は黒、下は白──を着てゐて、竿を見付け出して駆け出さうとすると……」(明治41年10月28日の日記より)
  • ここで目が覚めた啄木は、それから二時間も枕の上でふるさとの事を考えていた。
  • 啄木は遠く離れてふるさとを思った。そして「この甘酸っぱい想い出が詰まったふるさとへいつか帰ろう」と言う思いを抱きながらも、ついに帰ることなく26歳の生涯を閉じた。(第7回岩手日報文学賞随筆賞受賞者)

(2018-11-18 岩手日報