[ノリウツギ]
「短歌甲子園2018」秀歌鑑賞
かけがえのない出会い
特別審査員・小島ゆかりさん
第13回全国高校生短歌大会「短歌甲子園2018」は19日までの3日間開かれた。全国21校が参加し、歌人石川啄木の故郷で三行書きの短歌に思いを込めた。特別審査員を務めた歌人小島ゆかりさんに秀歌鑑賞を寄稿してもらった。
モノクロの世界を
反転させたひと
空の青とはこんなに青い
久留米大付設(福岡県) 有吉 玲
特別審査員小島ゆかり賞の作品。題詠「転」。
「空の青」というこれまでの認識としての「青」が、その出会いにより、作者だけの新しい、特別な青になるのである。題「転」を生かしたたった一つの動詞「反転させた」を中心に据え、きわめてシンプルな表現とリズムで、人生のゆたかさを表現したすばらしい一首である。
この街のすべてが
灰になったこと
忘れたような朝顔の花
宮城第一(宮城県) 鈴木そよか
個人戦最優秀作品賞。題詠「花」。
戦争に思いをはせ、痛みを受け止めようとする深いまなざしが感じられる。広島、長崎、さらにまた、戦火に傷ついた読者それぞれの「この街」。そして、そこに咲く夏の花「朝顔」。平和への希いを、若々しい感性で詠んだ秀歌である。
頼りないこの心音を抱きしめて
銀河の中に
ひとりで眠る
個人戦優秀作品賞。題詠「音」。
「頼りないこの心音」というナイーブな身体感覚から「銀河」への飛躍が、大きく美しい。三行書きの表記を生かした、歌の呼吸も鮮やかである。
転輪と火砲の砕く
中東の煉瓦を知らぬ
十三の我
盛岡第三(岩手県) 鈴木 陽
石川啄木賞。題詠「転」。
硬いひびきの言葉が、歌の厳しさを際立たせて、インパクトの強い一首。社会詠への果敢な挑戦のみならず、さまざまなテーマで独特の表現を見せた優れた作者。
大会をとおして、レベルの高い、力のこもった作品を作り続けた高校生たちに感謝します。
(2018-08-23 岩手日報)