〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

 啄木のように 尾崎豊さんがなれたらいいな…… 尾崎豊を育んだプロデューサー


[カヤ]


尾崎豊と音楽プロデューサーが1冊のノートで育んだ17歳の魂の叫び
【10時のグッとストーリー】
きょうは「私の大好き!アーティスト 初めて買ったこの一曲」にちなんで、特にリクエストが多く寄せられたアーティスト・尾崎豊さんの担当ディレクターに、デビューアルバム『十七歳の地図』の創作にまつわる秘話を伺いました。

  • 1983年暮れ、青山学院高等部在学中に、アルバム『十七歳の地図』とシングル『15の夜』でデビューした、シンガーソングライター・尾崎豊さん。レコード会社・CBSソニーが開催したオーディションに合格した尾崎さん。最初の担当ディレクターが、「育ての親」ともいえる現在はフリーの音楽プロデューサー・ 須藤晃さんです。
  • 須藤さんはもともと、現代詩が好きな文学少年で、東大英文科に進み「石川啄木のような詩人になりたい」と思っていました。しかし父親に「詩人で食えるわけがないだろう!」と言われ、CBSソニーに就職。ディレクターとなり、尾崎さんの担当を任されたときは、29歳でした。
  • 「最初に会ったとき、彼は約束した時間に、会社に来なかったんですよ」という須藤さん。待つこと1時間……レコーディングがあるので、もう行こう、と席を立ち、エレベーターのボタンを押した瞬間、開いたドアの向こうに、制服姿の美少年が立っていました、「『すみません! 遅れました!』という声が、すごく聴き取りやすいきれいな声だったんです。ルックスもいいし、初めて会った瞬間から、心をつかまれましたね」という須藤さん。
  • 当時16歳の尾崎さんに須藤さんは「これに、学校のこと、家のこと、友達のこと、女の子のこと…何でもいいから、今あなたが思うことを書いてきて」と、1冊のノートを渡しました。好きな本について話しているうち、尾崎さんも石川啄木を好きなことに気付きます。
  • 自分がなれなかった啄木のような存在に、尾崎さんがなれたらいいな……そう考えていた須藤さん。尾崎さんの停学中に、書きためた曲をリストアップ。尾崎さんの荒削りで未完成な感じを、そのまま活かそう…そこで、須藤さんの頭に浮かんだアルバムのタイトルが『十七歳の地図』でした。上がってきた詞を見て、須藤さんは息を飲みました。

 「歩道橋の上 振り返り 焼けつく様な夕陽が 今 心の地図の上で起こる 全ての出来事を照らすよ」

  • 「歩道橋から見た、昇る朝日ではなく、沈んでいく夕陽に生命を感じるなんて、すごい才能だと思いましたね。あのときの衝撃は、今も忘れられません」
  • この『十七歳の地図』をはじめ『15の夜』『OH MY LITTLE GIRL』、そして『I LOVE YOU』など全10曲を、須藤さんは基本的に、歌い直しを一切させず、すべてワンテイク、すなわち一発録りでレコーディングしていきました。

(2018-06-16 ニッポン放送


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