コラム(社会)
四季の花咲く「幻の環3」 播磨坂
今昔まち話
- なだらかに500メートルほど続く坂道を、桜の木々が包み込んでいる。東京メトロ丸ノ内線茗荷谷駅(東京・文京)から徒歩約5分にある「播磨坂」。3月下旬から4月上旬にかけてこの場所で開かれる「文京さくらまつり」は、40年以上地元に愛され続けてきたイベントだ。
- 「この坂道は江戸時代にはなかったんですよ」。3月末、区の観光ボランティアガイド、野崎和彦さんが播磨坂の歴史を説明すると、参加者は感心した 様子で聞き入った。
- 「播磨坂」の誕生は戦後。もともとは戦災復興事業で、都心を円形に結ぶ環状道路の一つ「環状3号線」の一部区間として開通したのだ。港区から江東区までをぐるっと結ぶはずだったが、前後につながる道路は未完成のまま、歳月が流れた。「幻の環3」とも呼ばれる理由がここにある。
- 現在の姿になったのは、1995年。半世紀前に住民が植えた約120本の桜並木が成長し、今では四季折々の花が咲く。
- 茗荷谷駅周辺はお茶の水女子大、拓殖大、跡見学園女子大などのキャンパスが集中する文教地区として知られる。文京区にゆかりの文人が多く、中でも歌人・石川啄木の終焉(しゅうえん)の地は播磨坂近くにある。最後に詠んだとされる2首の歌を刻んだ歌碑と、顕彰室を建設し、生涯を振り返っている。