コラム 「新生面」 熊本日日新聞
- 新聞社を「灯ともる頃のいそがしさかな」と歌ったのは、明治の東京朝日新聞で校正記者だった石川啄木である。本紙でも日がとっぷり暮れた頃からニュース面のゲラ刷りが配られ始め、作業は未明に及ぶ。
- 「ゲラ」は活版印刷で、組み上げた活字を納めた箱を指し、コンピューター製版の今も試し刷りのことをゲラ刷りという。毎日新聞大阪本社の校閲記者で、歌人の澤村斉美[まさみ]さんの第二歌集の表題が『galley』。ゲラの英語表記である。
- 澤村さんが東日本大震災当時に詠んだ歌。〈電卓に積む死者の数は今夜二度増えたり明日の朝刊に載る〉〈声のなき涙ながれてゐる頬をあやしみてぐつとゲラへうつむく〉。ゲラ越しに世の中をのぞく歌人の万感の思いだ。
京橋の瀧山町の
新聞社
灯ともる頃のいそがしさかな
啄木