〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

 大逆事件と啄木と杢太郎


[ホワイトサローワトル]


【書評】
歌人・川野里子が読む『不可思議国の探求者・木下杢太郎 観潮楼歌会の仲間たち』丸井重孝著
  近代日本の危うさ照らす光

  • 木下杢太郎(もくたろう)とは何者であろうか? 北原白秋斎藤茂吉石川啄木らとともに森鴎外邸で開催された「観潮楼歌会」に集(つど)った近代を代表する文学者である。同時に、彼は世界的に著名な皮膚病の医学者であり、いち早くハンセン病の絶対隔離に異議を唱えた。
  • 本書は、杢太郎の故郷である静岡県伊東市の木下杢太郎記念館に勤務する著者が丁寧に資料を読み込みつつ、杢太郎の多彩な活動を貫く思想に迫る。
  • 圧巻なのは、大逆事件や第二次大戦に対して杢太郎が何を考え、どのような態度をとったのかを、その日記や交友、著作から丹念に拾い上げ明らかにしている点だろう。
  • 大逆事件に強い衝撃を受け社会主義に傾斜していった啄木に対し、杢太郎は「時代の流れに左右されない普遍性のある価値観の希求」をする立場から軍国主義の危うさを見ていたとする。〈日本の社会生活が各個人の自由な生活が集まって、全体の大きな調和をなす〉ことを理想とした杢太郎は、〈一様に方向を定められた個人が、国家といふ大きな重荷を背負ふて居る〉状況を批判した。第二次大戦中には空襲のさなかにも大学の授業を続けたという。
  • 文学、医学、絵画、その広範で多彩な活動を貫くものを「不可思議国の探求」と著者は名付ける。その「不可思議国」の豊かな光こそ日本近代の危うさを照らし出す光源だったのだ。(短歌研究社・2700円+税)

(2018-01-07 産経ニュース)


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