〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

 顧客リストに啄木も 理髪店「喜多床(きたどこ)」 

漱石も啄木も ここで七三分け?

<街>

  • 今年で創業147年となる理髪店がある。移転を重ねながら街の移ろいを見つめてきた。いまは渋谷に店がある理髪店。森鴎外夏目漱石石川啄木……。顧客リストには名だたる文化人が名を連ねる。モノクロの写真に残る髪形は、七三分けだ。
  • 「少し前まで男性と言えばこの髪形が好まれました」。リストの持ち主で「喜多床(きたどこ)」の4代目舩越一哉さんが振り返る。1871(明治4)年創業で理髪店としては老舗中の老舗。客の頭と向き合いながら街や時代の変化と共に歩んできた。
  • 店は区画整理で立ち退くことになった。新天地は丸の内。 東京五輪の64年に、丸の内の別のビルへ移った。高度経済成長期、ビジネスの最前線で働く男たちがやってきた。ピシッと分けた七三分けはサラリーマンの代名詞だった。
  • 75年、渋谷にも店を出した。「今時の髪」は若いスタッフたちが手がける。「4代目にお願いしたいのですが」。ある日、若者から一哉さんに指名が入った。店の大半は年配客。「流行の髪形はできない。困ったなぁ」。不安まじりで尋ねると七三分けを望んでいた。「これなら得意分野だ」。ほかにも数人、平成生まれの常連ができた。「小僧時分に習った技術を生かせるのはうれしい。まだ負けられない」(向井宏樹)

(2018-01-04 朝日新聞


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