〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

 渋民を歩くと啄木の歌心を湧かせた風物に出合う


[ヒペリカム]


【日本ふるさと紀行13】渋民村(岩手県盛岡市
  歌人石川啄木のふるさと 中尾隆之(旅行作家)

    岩手山北上川のある望郷の村

  • 「ふるさとの山に向かひて言ふことなし ふるさとの山はありがたきかな」。駅前広場に歌碑が立つ盛岡は啄木が中学時代と新婚時代を過ごした町である。生まれたのは北郊の玉山村。翌年、住職の父の転任で渋民村に移住し、感受性豊かな幼少期を過ごした。
  • 「かにかくに渋民村は恋しかり おもひでの山おもひでの川」と詠んだふるさとは、いわて銀河鉄道渋民駅から歩いて約25分。最初に立ち寄ったのは石川啄木記念館。館内には直筆ノートや手紙、日記、生活用品と、中学中退で上京し歌壇で注目されながら盛岡、東京、函館、札幌、小樽、釧路、東京と転々とした貧困と病苦の26年の短い生涯が紹介されていた。
  • その敷地に学齢より1年早く入学し神童と呼ばれ、のちに教壇に立った渋民尋常高等小学校と、代用教員時代に間借りした斎藤家住宅が移築復元されていた。記念館のすぐ裏手の宝徳寺の本堂には啄木の部屋、前庭には閑古鳥(カッコウ)を詠った歌碑がある。
  • 渋民を歩いていると、啄木の歌心を湧かせた風物に出合う。それはいつかどこかで見たふるさとの原風景に重なる。

(2017-11-06 観光経済新聞


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