〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

 啄木研究 “卒業論文のテーマ” 岩城之徳


[岩手県盛岡市盛岡城跡公園 石川啄木歌碑 拓本]


『国文学 解釈と鑑賞』特集─石川啄木のすべて・人と作品─
   昭和37年(1962年)8月号 第三百二十三号 至文堂


卒業論文を書く人々のために  岩城之徳
 「啄木研究にはどんなテーマがあるか」

  • 卒業論文の対象として石川啄木を選ぶには、まずなによりもこれまで発表せられた主な文献を読まねばならぬが、その没後五十年間に発表された研究はおびただしい量にのぼるので、まず主要文献の解説と、研究の動向を扱った研究史を丹念に読んで必要な文献を探さなければならない。
  • 啄木研究のテーマとしてはいろいろの問題があり、限られた紙数で詳述することは困難であるが、卒業論文の性格として独創的な研究を目ざす一方、啄木の生きた時代についての広い視野を養う必要があるので、啄木と関係の深かつた同時代の文学者との交渉を調べ、当時の文壇に即して両者の相互影響なり、文学史上の諸問題を究明する仕事が学生には一番適当なテーマであるように思う。
    • たとえば森鴎外の観潮楼歌会や「スバル」を中心とする作家群像と啄木の関係をまとめる仕事。
    • さらにアララギ派と啄木との関係。茂吉と啄木の関係。
    • 啄木の編集した「スバル」第二号で問題となつた、平野万里との「短歌論争」を扱うのもテーマとしては面白い。
    • 大逆事件を契機とする平出修や、土岐哀果との関係を探る仕事。
    • 「明星」を中心とする与謝野鉄幹との交渉、与謝野晶子の啄木に与えた影響とその関係。啄木と北原白秋若山牧水と啄木。西山陽吉、魚住折芦。
  • 啄木研究のテーマとして奨めたい問題はそのほか、明治四十三年から四十四年にかけて東京朝日新聞や、東京毎日新聞に発表された啄木短歌を克明に調査して、その抒情の進化を探る仕事がある。啄木の短歌を論じる場合、これらの新聞を舞台として広く民衆に結びついていつた彼の作品の性格を検討することは、今後に残された重要な問題であろう。