〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

 啄木が通った「しゃも寅」の地名


[料亭しゃも寅跡の井戸 釧路市 2006年]


卓上四季「地名」 [北海道新聞]

  • 江戸は上野のあたりから、長屋の連中がワイワイと出かけてゆく。目指す先は麻布の寺である。落語「黄金餅(こがねもち)」は、道中の地名を延々と語るのが聞き所だ。「新橋を右に切れて土橋から久保町…坂を上がって飯倉片町。永坂を下りまして十番へ出て大黒坂を上がって一本松」。町の名を40ほども並べる。
  • 経路を知りたくて、地図をめくった。載っていない所が多い。新たな町名になって消えてしまったようだ。飯倉片町は「麻布台3丁目」。一本松は「元麻布1丁目」。何だか味気ない。
  • そんな思いをした後で道内の地図を見ていたら、気になる地名に出合った。「しゃも寅(とら)通」。釧路市内のバス停だ。しゃもと寅? 地元では知られているのだろうが、初めての響きに興味が湧く。
  • 調べると、「しゃも寅」は石川啄木が通った料亭だった。親しい芸者の小奴(こやっこ)が働いていたという。〈小奴といいし女のやわらかき耳朶(みみたぶ)なども忘れがたかり〉。昔知った歌を思い出す。なるほど、この名を消してはもったいない。

(2017-06-11 北海道新聞


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