〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

 新刊『朝の随想 あふれる』啄木に会いに…


[『朝の随想 あふれる』(カバー写真:著者  右端、微かに消えかかる山は「利尻富士」)]


『朝の随想 あふれる』
 山下多恵子 著 未知谷

2012年4月から9月まで半年間、週一回、NHK新潟ラジオ「朝の随想」で話した原稿を集めたもの。
「語る」ように書き、「聞く」ように読みたい、「動詞」にまつわる26のお話。


#お話のうちのひとつ#
第2回「会う * 啄木没後100年」
もしも歴史上の人物にたったひとり会うことができるとしたら、私は迷うことなく石川啄木に会いに行きます。
啄木の歌集『一握の砂』は、文学性の高さ、多くの人に親しまれているという点で近代以降の歌集のなかでも突出しています。 
  砂山の砂に腹這ひ/初恋の/いたみを遠く思ひ出づる日
  山の子の/山を思ふがごとくにも/かなしき時は君を思へり
  はたらけど/はたらけど猶わが生活楽にならざり/ぢつと手を見る (生活=くらし)
私たちはうれしいとき淋しいとき苦しいとき、『一握の砂』を開くとその時の感情にぴったりの歌が必ず載っています。
啄木が亡くなって今年(2012)で100年になります。1912年(明治45)4月13日、啄木は息をひきとりました。桜の散る午前九時半でした。啄木は、わずか26年2カ月の生涯を実によく生きた人であり、人を愛し人に愛される人間でした。
啄木に会うことは叶わないことですが、彼は作品を通して「生きなさい。生きるんですよ」と私たちをやさしく励ましてくれているような気がします。そう思うと、生きる力が湧いてくるのです。それを私は「啄木の力」と呼んでいます。

『朝の随想 あふれる』
 山下多恵子 著 未知谷
 2017年5月発行 1500円+税


目次
1 在る 2 会う 3 渡す 4 似る 5 訪ねる 6 書く 7 思う
8 焦がれる 9 歩く 10 運ぶ 11 感じる 12 悩む 13 写す 14 忘れる
15 励ます 16 降る 17 佇む 18 あふれる 19 信じる 20 生きる
21 支える 22 刻む 23 待つ 24 気づく 25 つなぐ 26 伝える


登場する文学人
塔和子/石川啄木五味川純平森鴎外二葉亭四迷網野菊種田山頭火宮澤賢治太宰治紀貫之北條民雄川端康成/P. ヴェルレーヌ坂口安吾吉本隆明/宮崎郁雨/埴谷雄高井上光晴知里幸恵/平出修/中島敦ほか