〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木と同じようにあの朝「言ひそびれたる大切の言葉」をつぶやいて……2011.3.11


[ウメ]


〈くろしお〉「言ひそびれたる大切な言葉」[宮崎日日新聞]


  「かの時に言ひそびれたる 大切の言葉は今も 胸にのこれど」

  • この一首は石川啄木の歌集「一握の砂」の中にある。作者が言いそびれたのは、いとしい人への告白だったか。
  • 歌人俵万智さんはその著「あなたと読む恋の歌 百首」で指摘する。「恋愛の場面で生まれた歌だが、親子関係や友人同士においても、『言ひそびれたる大切の言葉』を胸に抱えていることが少なくない。そんなふうにも読めるところがこの歌の奥深さ」だ、と。
  • 東日本大震災はきょう発生から6年を迎えた。死者1万5893人、行方不明者2553人、避難生活での体調悪化などが原因の震災関連死は3523人。延岡市の人口に匹敵する12万3千人もが避難生活を送っている(3月10日現在)。
  • 啄木の胸の内と同じようにあの金曜の朝、親がこどもらに、こどもが親に、あるいは夫婦の間で言いそびれたことが無数にあっただろう。週末の予定だったり4月からの新しい生活のことだったり。「帰宅してからでいいかな」。そう思って手を振って最後の別れに。
  • 大震災はいろいろなことを教えてくれた。平凡な一日、人と人のつながり、感謝の心の大切さなど。午後2時46分に「言ひそびれたる言葉」をつぶやいてみたい。おびただしい命が空へ昇った時間にそうすれば亡き人たちに届くと信じて。

(2017-03-11 宮崎日日新聞記事