〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

漱石は病床の啄木のため見舞金を送り葬儀に参列する


[ヒスイカズラ]


「日日草」[岩手日日新聞]

  • 「明暗」。そのどこか愁いを帯びたタイトルに引かれ、夏目漱石の小説を手にしたのは高校生の時だった。漱石が病没したことにより絶筆となった未完の長編作。三人称小説であったことでも特別な作品とされている。
  • 同時代の歌人石川啄木は、東京朝日新聞の校正係時代、漱石の年下の同僚として職場を共にしている。歌壇の選を任され、生活的に安定した時期であったが、程なく結核に倒れ、出社はおろか治療代にも事欠くことになる。漱石は病床の啄木のために何度も見舞金を送っている。啄木は貧窮にあえいだ生前、漱石とどのような言葉を交わしていたのだろうか。啄木の葬儀には、その文才を悼んだ漱石も参列している。
  • 不来方のお城の草に寝ころびて空に吸われし十五の心」。歌集「一握の砂」に収められた啄木を代表する短歌だ。才能に恵まれながら世間の評価からは縁遠く、26歳の短い生涯を閉じた啄木。漱石と重ね合わせると、両者の明暗が何やら浮かび上がる。
  • 不来方」といえば、選手10人の不来方高校が第89回選抜高校野球大会21世紀枠で初出場する。かつて啄木が盛岡城から見上げた空が、甲子園に行き着いたと思わずにいられない。春3月―。岩手は暗い冬が去り、明るい季節がやって来る。

(2017-02-25 岩手日日新聞)記事