〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

秋田県鹿角と石川啄木をつなぐ縁 <10(おわり)>

啄木文学散歩・もくじ


10 鹿角市役所の啄木詩碑、交響詩『鹿角へ、わが故郷へ』作詞 石川啄木


グッと近寄って「石川啄木詩碑」(鹿角市役所)

◎現代文訳


   鹿角の国を懐ふ歌
         石川啄木


  青い山々に囲まれている
  遙か鹿角の国を回想していると
  感動の涙が流れてきます。
  錦木塚の大公孫樹は、月夜の晩には、
  夏でも黄金色に変り、昔からの
  若々しい恋の話を伝えてくれます。
  風がふけば、枝から洩れる月の光が、
  白糸のように静かに揺れ、
  細布を織る梭(おさ)の音のようにゆったりと、
  語ってくれるといゝます。
  十和田の嶽の古い沢に、
  昔から鬼が住むという深い峡は、
  たちこめるガスに濡れて、人の立入った跡もなく、
  岩苔の緑を吸いながら流れ落ちる
  渓流の崖に、雄鹿が妻をもとめて恋い啼くのに、
  人が近づいても、恐れる風もないという。
  そんな鹿角の国を思うと、
  感動の涙が流れてきます。

  その昔、幾代も朽ちずに、残る碑や、大理石の回廊、
  玉垣や、壁画、青銅の獅子、それに物語りなど、
  確かな証は残っていないが、
  その愛は受継がれ、
  太陽や月、星が生まれた
  天界から伝えられたかのように
  人の輝きや、芸術の基である「愛」に満ちたところー。
  若者の相愛が花のように映えて、
  錦木の枝も紅く色どりをそえて輝いているところ。
  昔から角笛を鳴らす猟師たちも
  枝により添う美しい雉子が、
  つがいであるとみれば、
  弓を引かなかったといわれる。
  そんな人々が暮す、鹿角を偲んでいると、
  感動の涙が流れてきます。

  神の使いのトンボが教えてくれた聖なる泉、
  そこから流れ出た尽きることのない、
  米白川の水が潤って、草茂る豊かな、
  鹿角の国を思うとき、
  感動の涙が流れてきます。

  その流れに、身も心も清めた、
  色白の鹿角の乙女たちが、
  夕べの礼拝をする。
  肩に白雲を頂いた、神寂びた逆矛杉、
  その根元の深い洞の中に、
  神が住んでいると伝えられている大日堂
  壁の墨絵の大牛が、西陽をあびて、
  浮き出てみえる日暮れ時、
  沈む秋の陽の黄を映した衣装の裾を乱しながら、
  石段を静々と踏みのぼる。
  伏目がちに、供物の神米を捧げ持って、
  麻の服に素朴にわらで束ねた乙女達の、
  黒髪は、まるで神代から続く水の香りがするようだ。
  帰路の足どりは、こばしりに、杉の木陰の路を、
  すたすたと、露に濡れた素足で、
  ひらひら翻る袖を夕陽に染めながら
  さながら神の使いのトンボが、
  命の泉のあり処を教えに来た日のように軽やかに、
  馬を飼う恋人の元へと急いだ。
  そのつつましさ、美しさは、米白川の流れが、
  何時までも絶えることがないと同じように、
  かって錦木を贈った、若者達の心を映し出しているようだ。
  神代から脈々と続いている、
  そんな鹿角の国の情景を回想していると、
  感動の涙で満たされます。


    (訳者 海沼志那子 旧姓 川又)(錦木塚展示室 展示より)





碑陰

碑陰

  庁舎外構工事竣功記念
  昭和六十年七月十五日

  寄贈 株式会社村木組
      代表取締役 村木富太郎
         製作 石井久




鹿角市 マンホールの蓋


鹿角市の鳥「声良鶏(こえよしどり)」と「ナナカマド」「ベニヤマザクラ」のデザイン。

他に天然記念物「比内鶏(ひないどり)」も有名で、とても美味しい。






熊注意の電光掲示


熊「出没注意」…秋田県が初めての警報発令
ニュースによると、クマによる被害が相次ぎ(特に鹿角市で)、秋田県は県内全域に警報を発令した。2016年9月1日〜12月31日までの期間だそうだ。






錦木展示室の啄木


石川啄木作詞の「交響詩」のこと

  吹奏楽と混成合唱のための交響詩
 『鹿角へ、わが故郷へ』
   作曲・指揮 後藤洋
   詩 石川啄木(鹿角の国を憶ふ歌より)

     演奏 花輪高校、十和田高校吹奏楽
     合唱 鹿角地区吹奏楽連盟
     平成2年 鹿角地区吹奏楽連盟創立30周年記念演奏会 収録


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