“キーン・マジック”で描く天才歌人の生涯
- 阿刀田高(作家) ドナルド・キーンさんのような世界に影響力のある日本文学者が、おそらく日本で最も人気のある歌人・石川啄木の生涯を紹介することは、我々にとって大いなる喜びではないでしょうか。啄木の短歌は、文語的表現で書かれながら、内容は極めて現代的。人生の1秒一瞬を、一つの心理で捉えることができるという点で、啄木は生まれながらにして言葉の天才でした。1人の天才が、大変に強い自我を持って生きたことが本書からはよく分かります。
- 片山杜秀(政治学者・慶応義塾大教授) 確かに天才ですね。〈ふるさとの訛なつかし 停車場の人ごみの中に そを聴きにゆく〉なんて情念と写生とアクションの三位一体です。天才的に“変な短歌”であり、戦後の鬼才、寺山修司の短歌も啄木を超えていないように思えます。
- 山内昌之(歴史学者・明治大学特任教授) 啄木を構成する大きなファクターは「北海道」。この本でも北海道での生活は事細かに描かれます。札幌は〈秋風の郷なり、しめやかなる恋の多くありさうなる都〉。啄木は自分が歩いた街を本当に良く見ている。その観察眼には地元人としても感心させられますね。
- 阿刀田 キーンさんは本書の最後をこう結んでいます。〈地下鉄の中でゲームの数々にふける退屈で無意味な行為は、いつしか偉大な音楽の豊かさや啄木の詩歌の人間性へと人々を駆り立てるようになるだろう〉。貧乏しながら惨憺たる生活を送り、周囲に迷惑をかけながら生きた歌人の人生を通じ、日本語の深さや素晴らしさを改めて省みよう。そう思わせる1冊ですね。
(2016-05-27 文藝春秋WEB)
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